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東方Project二次創作
東方空夢匣 〜 Gift from the Gods.

- Prologue -




第123季 皐月

春も終わり、初夏の爽やかな風が薫る頃、
幻想郷である一つの異変が起きていた。
そしてそれは徐々に規模を広げ、いよいよ巫女の耳にも入ることになった。

その異変とは、幻想郷のあちこちが迷宮に化している、という物だった。
地形は入り組み、魑魅魍魎が跋扈し、不思議な事に近づくたびに地形は変化する。
更にそこで倒れると、持ち物は全て無くなり、目を覚ますと入り口まで戻っているという。

そんな不思議な事があるのか、またどこかの妖怪の仕業だろうか。
しかし話を聞く限り規模が大きすぎる。
湖、紅魔館、魔法の森、妖怪の山、竹林、挙句の果てに冥界、
まさに幻想郷中が迷宮と化していたのだった。
余りに大規模すぎる、ここまで大きな異変を起こせる者など、
幻想郷でもなかなか居ない。
出来るとしたら、あいつくらいだろう。


「あら、私じゃないわよ?」
背後から言われ振り返ると、境界の妖怪、八雲 紫が微笑んでいた。
「あんたねぇ……だから、いきなり人の後ろに現れないでよ」

八雲 紫――幻想郷の最高神である龍を除けば、
はっきり言って、幻想郷の中でも最強クラスの力があるだろう。
この妖怪であれば、それこそ幻想郷自体を破壊することだって、可能なのだ。

「まぁまぁ、そんな事よりこの異変、早く解決したほうがいいわよ?」
「……? あんたらしくも無い、珍しいこと言うのね」
「まずは人里へ行きなさい。神社から人里までの道も
迷宮になっちゃってるけど……それじゃ頑張ってね」
そこまで言うと、ふっと紫は姿を消した。

いつもながらに神出鬼没で胡散臭い事を言うだけ言って帰ってしまったが、
今は紫の言う通りにすることにした。
何故なら、紫ほど幻想郷と真摯に接し、
幻想郷を愛している者はいないと分かっていたから。


初夏の風が霊夢を撫でる。
さっきまで爽やかに感じていたそれは、梅雨の始まりを感じさせる、
じめっとした不気味で気持ち悪い風に変わっていた。
まるでそれから起きる事を予見していたかのように――

春はもう、終わる。

東方空夢匣 〜 Gift from the Gods.


「――夢はね、現にはならないから夢なのよ。残酷だけれど、ね」